皐月のフレイル対策
日々新型コロナウイルスに関する報道が世界中を駆け巡っています。東京は感染者数拡大に伴い外出自粛が求められ、日頃の賑わいとは異なる静寂な街並が春の柔らかな日差しを浴びています。ある程度混乱があっても周りと足並みを揃える日本人の気質によって自粛が行きわたってきたようです。但し、右へ倣え的な発想は一歩間違えば差別や嫌がらせにも繋がりかねません。その境界線を守る知性も今は試されているように感じます。
気候の良い皐月に自粛の日々は酷ではありますが、家族の絆を深めたり、工夫して楽しむ智慧を創出したりと、新しい快適な過ごし方を見出すチャンスと見做す方も多いようです。
今回は前回に引き続きサルコペニアやフレイルについて書かせていただきます。フレイルは海外の老年医学の分野で提唱された概念“虚弱、老衰、脆弱”などを指す言葉だそうで、あまり好感が持てないのですが、正しく知ることでフレイルから介助を必要とするサルコペニアへの移行の歯止めとなるかもしれません。
フレイルの診断基準は5項目あり、そのうち3項目以上が該当すればフレイル、1~2項目の場合にはフレイル前段階とされています。●ダイエットなど意識的な減量ではなく、年間で4.5㎏以上、あるいは5%以上の体重減少がある場合●疲れやすく、何をするのも面倒と感じる日が週3~4日ある場合●歩行速度の低下●握力の低下●身体活動量の低下…がその5項目です。何か該当しましたか?
私自身、瓶の蓋を開ける時などに握力が落ちているように感じています。フレイルは身体能力だけでなく、精神的なことも含まれ、社会生活にも不具合が出る可能性があるのです。フレイルになれば、どのようなことが起こるのでしょうか? 病気に対する抵抗力が落ち、軽い風邪でも肺炎を併発することがあります。また、ちょっとした転倒で骨折に至ることも想定できます。社会生活が面倒になった場合、孤立して認知の低下を招くことさえあるのです。つまり、日常生活が円滑に行えない可能性があり、早めの対処がフレイル発症の抑止力となります。本人の自覚は勿論、ご家族がご不安を感じられた時にはドクターにご相談なさることも重要です。
フレイルの根本原因は低栄養です。年齢と共に同じ量を食べていても口当たりの良い食材に偏りがちになり、筋肉を作るタンパク質量が相対的に減ったり、似たり寄ったりのメニューを続けたりすることは避けたいものです。また、1日5000歩程度歩くことも重要で、家事を人任せにせず、こまめに動くことで筋力向上を心がけましょう。
WEBを活用して積極的に他者と関わり、冷蔵庫の中にある食材で新メニューの開発に挑戦すれば、新鮮な日々の過ごし方とフレイル対策の一石二鳥かもしれませんね。
神楽坂発 お身体へのお便り No.82
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。