高齢期のうつと自宅で過ごす日々
我が家の山桜はそろそろ樹齢100年を迎えようとしています。「山桜 愛でられもせず 逝かれけり(岩間れい子作)」山間に咲く山桜は愛でる人もなくやがて散っていってしまうのでしょうか。ソメイヨシノが中心の東京ではすでに花は散り、美しい若葉が木陰を作り始めています。
我が家の山桜は主幹に雷が落ちて大きな洞ができ、止む無く昨年切りましたが枝幹が残り、しっかりと新しい枝を伸ばして花を咲かせ始めました。先日は東京で5㎝ほど積もる降雪があり、山桜にハラハラと雪が舞い散る珍しくも風情ある姿を見ることができました。自然は逞しく、絶えることなく命を繋いでいます。今は新型コロナウイルスの前に立ちすくんでいるように見える人類も医療や医学、そして人々の自覚によって必ず前へ進み始めるでしょう。
東京では新型コロナウイルスの蔓延によって自宅待機の要請が出て、外出せずに日々を楽しむ姿勢が求められています。新型コロナウイルス由来感染症(Covid-19)は高齢の方の心身の健康にとって大きなリスクとなるようです。高齢の方が外出を控え自宅に籠っていると筋肉量の低下は勿論、精神的うつ症状も出がちになります。特に孤独な方の場合、外出の機会が減ることで空虚感や孤立感が深まり、うつ病発症のリスクを大きくしてしまいます。うつ病自体症状に個人差があり、特に年配の方の場合、“年のせい”と見落としがちになってしまいます。
高齢者のうつ病は統計によって一定程度の差異はありますが、約20%と高率で発生しています。うつ病は早期発見によって充分に治療効果の上がる病気だそうですが、周囲の人の無理解によって未治療のまま時間が経過することも多くあるようです。
高齢の方のうつ病の特長として、身体の不調を訴えたり(年のせいと軽く扱われがちですね)、活動性の低下や記憶力の減退によって、認知症と捉えられたりすることもあるようです。食欲が低下したり、夜中に何度も目覚めて、朝早く起きてしまったりなどの自覚症状があれば早めに受診することも大切でしょう。また、自宅では充分な運動ができないことも不安材料となります。
加齢による筋の衰弱は一次サルコペニアと呼ばれています。因みにこの状態は40歳以上の約25%にみられるそうですが、年齢を重ねるほどその割合は大きくなります。特に問題となるのは転倒などで筋線維が壊れることです。年齢を重ねると筋再生能力が低下していくために場合により介護が必要な状態も生み出してしまいます。自宅でのちょっとした段差や階段などの上り下りには充分に注意しましょう。
健やかな心身を維持し、自宅で細かく身体を動かし、環境を整えながら日々を慈しんで暮らしませんか。サルコペニアの話題は次回も続けさせていただきます。
神楽坂発 お身体へのお便り No.81
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。