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デジタル版・新聞

コラム 旅は呼んでいる 加西来夏

ケニア

 とある動物園に行った際、ホッキョクグマが同じ場所で延々とぐるぐる回っていた。明らかに様子がおかしいー狭い飼育環境によるストレス性の異常行動だった。動物園は子供も大人も楽しめる場所のはずなのに、当の動物は辛い思いをしている…その日は早々に帰宅した。

 

 弱肉強食の世界で生き抜くのは過酷だが、本来あるべき姿を見たいと思い訪れたのがケニア。野生動物の中でも、体が大きく希少価値の高い動物、ライオン、バッファロー、ゾウ、サイ、ヒョウは≪ビッグ5≫と呼ばれる。後者二種以外と、その他ハイエナやインパラ、イボイノシシ、子犬サイズの鹿のようなディクディクといったアフリカならではの動物達がサバンナのあちこちにおり、生き生きとした様子を見ることができ感動した。

 

 また、プレートの移動によって出来た広大な≪グレートリフトバレー≫では数多くの類人猿の化石が発見され、人類誕生の地とも呼ばれていて見た目も壮観だった。ここから私達の歴史が始まったのか、と思うと月並みだが日頃の悩みなどどうでもよくなってしまった。

グレートリフトバレー

 マサイ族の方々と交流する機会があり、牛の糞や泥で固めて作った家、暮らしぶり、タータンチェック柄の民族衣装など伝統的な文化について解説してもらった。中にはTシャツやジーンズを着用し、携帯電話を所持している若者がいることに驚き、己の認識の甘さを反省した。まるで、日本にまだニンジャやサムライがいると思っている一部の欧米人と同じではないか。しかし、訪れたことのない国について正しい知識を持つのは、なかなか難しいものだと学んだ。

木陰で涼むライオン
マサイ族

 サファリを満喫しながら、人間の乱獲によって絶滅した動物達を想った。いつかここにいる動物たちも、飛べない鳥ドードーやステラーカイギュウ、リョコウバトのように地球上から消えてしまう日が来るのだろうか。そう考えると、動物園は動物を保護する為のある種ノアの方舟だろうが、展示環境は彼らにとってなるべく良いものであって欲しいと願う。

●加西 来夏 (かさい らいか)

訪問39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/「旅行や移動の自由を苦労して勝ち取った私のような者にとって、こうした制限は絶対に必要な場合にのみ正当化される」。外出できない今、ドイツのメルケル首相のスピーチが心に響きました。


(日刊サン 2020.4.17)

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