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デジタル版・新聞

インタビュー

巨大筆で魅せる 書道家 竹原弘記さん

型にはまらず自分らしさを探求

デニム地の着物にサングラスをかけた出で立ちの書道家が、重さ20キロの巨大筆を持ってパフォーマンス。そんな前触れに、一瞬奇抜さをウリにしたアーティストなのか?! という印象を持つ。ところが、目の前にいたのは、書を心の底から愛する、シャイで一本気な真の書道家だった。

 

4歳から書道に夢中

「書道家になる!」と竹原弘記さんが決めたのが2009年。結婚をする時に妻の裕子さんが「好きなことを仕事にしたら?」と言ってくれたことがきっかけだった。

岡山県岡山市生まれの竹原さんは4歳の時、親に近所の書道教室に連れて行かれた。両親は単に「字を覚えさせよう」という軽い気持ちだった。ところが、弘記少年は筆を持って書き出してから書道が楽しくて仕方なくなった。小学校に上がると、本来週1のお稽古だったのを先生にお願いをし、週2回通わせてもらうほど大好きに。

 

当時所属していた『書道会』の展覧会に毎年出展をしており、1989年と90年には2年連続で最高賞を受賞。竹原さんは当時14歳、15歳。展覧会に向けて、学校と部活以外の時間はほぼすべて、書道の練習に費やした。一箱に千枚入っている半紙を何箱も書いて練習していたという。

岡山の大学を卒業後、会社に就職し、サラリーマンをした。その傍らで、自分の好きな作品を書き、時折個展を開いた。

妻裕子さんの後押しで、「書道」の道一本で進むことに決めた。しかし「書道家」と名乗ったものの、なんの後ろ盾もない一匹狼。暗中模索の中でのスタートだった。とにかく「自分は書くことが大好き。書くことしかできない」と、ひたすら書き続けては個展を開き、そこで自分の作品を気に入ってくださったお客様に販売することを繰り返した。

 

転機は登山家との対談

書道家としての活動を始めて翌年、転機が訪れた。ある縁で登山家の栗城史多(くりきのぶかず)さんと対談することになったのだ。その対談で栗城さんに「竹原さんの夢はなんですか?」と聞かれ、「世界中の色んな場所で、その場の風を感じながら字を書きたいです」と、自分でも意外な”ぶっとんだ夢”の大言をしてしまった。

その時は本当に海外に行けるなんて思っていなかった。ただその対談後「あんな夢を語ったのだから、どこか海外に行ってみよう」と妻裕子さんとも話し、2人で最初にやって来たのがハワイだった。

2011年3月、何のツテもなくハワイに来て、そこで出会う人達にただ夢を語った。するとその中に「ニューヨークにやりにおいでよ」と声をかけてくれる人がいた。夫婦はニューヨークへ飛んだ。しかし、「本当に来たの?!」と驚かれ、何も活動につながらずに空振り。

 

 

夢実現と巨大筆の誕生

ところが、このニューヨークの旅から戻ると2つの話が舞い込んだ。一つはニューヨーク滞在中に新しく出会った人から「個展を開きませんか?」というオファーだった。即決の返事を出し、3カ月後には、ニューヨークで初の個展と、同時に人前でのパフォーマンスの開催することができた。

そして、もう一つが「巨大筆で書けますか?」という問い合わせだった。竹原さんの故郷、岡山で、ジーンズメーカーの社長さんからだった。

岡山県倉敷市は国産ジーンズ発祥の地。その倉敷市が、デニム地のルーツ、フランスのニームとの国際交流の一環で、デニムファッションショー「デニム航海路2011」の開催が予定されており、そこで巨大筆による書のパフォーマンスをして欲しいとのことだった。

竹原さんはそれまで、普通の筆(直径15×穂丈84ミリ)でしか書いたことがなかったのだが、「できます」と挑戦を決意。そして、このイベント用に約4倍以上の大きさの筆をこしらえ、「青」という字を観客の前で書いた。  竹原さんはこのイベントがきっかけで巨大筆による書に魅了された。それから、自分の書きたいものが頭の中でどんどんと膨らみ、それに合わせて筆も大きくなり、ついには現在、主に使っている重さ20キロ(100頭分の馬の尾の毛を使用)、さらに最大60キロの重さの筆が誕生した。

 

2012年からはニューヨークでも巨大筆のパフォーマンスを始めた。またフランスでは路上パフォーマンスをし、その場の観客のリクエストに答えて書を書いた。最初は怪訝そうに見ていた観客も一旦気に入ると、今度は我も我もと人が押し寄せたという。

さらに、2014年にはイギリスから声がかかった。創立150周年を迎えた私立テットンホールカレッジの祝賀イベントで、巨大筆のパフォーマンスと書道のワークショップを頼まれたのだ。幼稚園から大学まで一貫教育で、世界各国から生徒を受けて入れており、国際的なカリキュラムに特化した学校だ。学び舎の荘厳な建物に圧倒され、そして実直で純粋な生徒達の姿に胸を打たれたという竹原さん。

このパフォーマンスの評判が広まって各地から招待され、イギリス横断の旅となった。学校だけでなく、ボランティアでホスピスにも行った。末期の患者さん達に書道のワークショップを開催。皆さん、患者とは思えないくらい明るく一生懸命に字を書く姿に、竹原さんの方が元気と感動をもらったという。

5年ぶりにハワイからもオファーが来て、一昨年、曹洞宗のお寺でのパフォーマンスが実現した。

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