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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】いつになったら、マスクなしの生活が実現?

 中国・武漢から始まった世界的なコロナ感染は、収束の気配を見せず越年して4年目に入る見通しとなっている。マスクを着けずに生活できるのは、いつになるのか。外国と日本ではマスク着用に対する意識や対応策に落差もあり、お手本を見出すことは難しいが、新しい年には、明るい展望が開けることを期待したい。

 日本が決勝リーグ進出で盛り上がったワールドカップ(W杯)サッカー大会。カタール・ドーハなどの競技場から送られてくる映像を見ると、観客席のサポーターたちはマスクを着けないまま懸命に声援を送っていた。W杯開幕を前に、カタールは感染症対策を大幅に緩和し1023日以降、マスク着用義務は医療施設内に限定し、公共交通機関を利用する場合も、着用は任意とする方針を打ち出した、と現地からの報道は伝えている。

 日本から応援に訪れた人たちも、スタンドだけでなく、地下鉄などでノーマスクの各国サポーターが歌声を上げる光景に戸惑っていたという。「街の人々を見ていると、コロナ下だったことを忘れそうになる」とつぶやきが洩れた。

 このスタンドの映像をめぐって、「ゼロコロナ」政策を徹底してきた中国で、ちょっとした異変が起きた。マスクなしで声援する瞬間の映像が、意図的にほかの場面の映像に切り替わって、中国国民の目には触れないような配慮がなされていた。W杯開催とタイミングを合わせるように厳しい「ゼロコロナ」政策に異議を唱える国民の反対運動が各地で広がり、中国政府は規制方針の段階的緩和に重点を移し始めたが、政権幹部にとって、W杯の映像は刺激的過ぎたようだ。

 マスク着用をめぐる日本と海外の温度差が浮かび上がったのが、英国のエリザベス女王の国葬と安倍晋三元首相の国葬儀だった。919日に国葬が執り行われた英国の場合、参列者の大半がマスクを着けず、日本から参列した天皇・皇后両陛下も、式場ではマスクは着けていなかった。

 その1週間後の927日に行われた安倍元首相の国葬儀で、日本政府は参列者にマスク着用を要請した。2つのセレモニーは時期が近接していただけに、その対比が浮かび上がった。

 岸田文雄首相は10月に入って、国会で「マスク着用のルールを含めた感染対策のあり方を検討する」と表明した。海外ではマスク着用義務が大幅に緩和されていることを念頭に、海外からの観光客の入国条件を緩和してインバウンドの増加や経済活動を活発にしたいという狙いがこめられていたようだ。

 すでに5月時点で「屋外では原則的にマスク不要」との方針が出されているが、国民に浸透しているとは言えない。我が家のそばの佃公園でも、時にマスクなしで散歩している人を見かけるが、少数派にとどまる。

 岸田首相は自動車のF1レース日本グランプリなどでマスクを着けないままセレモニーに出席するなど、マスク緩和に前のめりともいえる姿勢を示してきたが、マスク着用にこだわる国民の心には届いているとはいえない。

 日本に滞在する外国特派員の目には、日本人がマスクを外さないのは、日本社会を支配する空気のような「同調圧力」によるのではないか、と映るようだ(朝鮮日報東京支局長の1017日付け毎日新聞コラム)。着用義務がないと政府が表明していても、「なんとなく」といった空気に支配されがちで、確かに自分自身の日常生活を考えても、屋外で自分だけマスクを外していると、行き交う人の視線が気になってしまう。

 こうした空気の中で、マスク騒動は将棋の対局にも飛び火した。名人戦A級順位戦が行われた1028日、佐藤天彦9段が反則負けになった。理由は、終盤に約30分ずつ計2回、マスクを着けないで対局に臨んでいたことが、日本将棋連盟が新型コロナウイルス対策で定めた「臨時対局規定」に反していると裁定されたことだ。佐藤9段は不服申し立てをしていて、ファンなどにもこの決定を疑問視する意見が強いが、いかにも日本らしい現象かもしれない。

 ところで感染初期の2020年春に当時の安部晋三首相が大々的にPRした「アベノマスク」のその後はどうなったのか。契約単価や発注枚数の開示を求める裁判の判決が来年2月に大阪地裁で予定されているが、その検証結果もきちんと国民に説明されているとは言えない。

 厚生労働省の要望による分も含め当初の購入枚数は2億8千万枚、442億円相当といわれる。1世帯に2枚の配布計画だったが、大量の在庫が残って昨年暮れには在庫の保管費用だけで6億円かかるとの数字が示された。その後の再配布後も、約30万枚が残って再資源化されたという。アベノマスクに限らずコロナ対策に注ぎ込まれた国の予算と効果の検証は、大きな政治的課題だ。

 こうした現状をみると、マスク着用が必要でなくなる日は見通せない。個人的にはオミクロン対応の5回目のワクチン接種も済ませ、自己責任で身を守るしかないが、医学的見地からの的確な指針はないものか。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


 

(日刊サン 2022.12.14)

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